Cの仲間では首領のW・G氏以外は本名を明かしませずに番号ばかりで通信する規則になっておりますので、止むを得ませぬ時に仮名を使うだけでございます)と申す者が、或る重要な要件のため、外交界でよく申します「暗黒公使《ダーク・ミニスター》」と相成りまして、東洋方面に出張する事に相成りました旨、妾の手許に情報が参りました。それと同時に、その先発として、やはりJ・I・Cの一人となっております自称|樫尾初蔵《かしおはつぞう》と申す者が、J・I・Cの東部と西部と双方の首領の護照《ごしょう》を持ちまして、去る六月の末頃から日本に参りまして日本のJ・I・Cに属する日、鮮、支人の身元と消息を詳しく取り調べ初めたのでございます。
 さて、この樫尾と申す者は、如何様《いかよう》な人物かと申しますと、若い折は露西亜人を装いまして彼得堡《ペトログラード》に入り込み、明石《あかし》大佐の配下に属してウラジミル大公の召使に住み込み、軍事探偵の仕事を致しておりました者で、日露戦争後は引き続き日本政府の信任を受けまして米国に入り、各種の秘密結社の内情を探っておりますうちに、前に申上げましたJ・I・C東部首領、W・ゴンクール
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