す。それで、J・I・Cの団員は、あたかも羅馬《ローマ》に於ける最初の基督教の布教者と同様の厳重なる秘密組織と致しまして、団員は一人一人に殉教者となる覚悟をもちまして各国に紛れ入り、その国の好戦的準備を妨害致す仕事を致しておりますので、妾の夫志村浩太郎は、その西部首領の仕事を引き受けておりましたものでございます。
 又、一方に、その志村浩太郎の妻と相成っておりました妾《わたし》は、或る恐ろしい事情のため、久しい以前から夫と、一人子の嬢次と三人、離れ離れになっておりました者で、その後、寡婦と同様の境遇に陥りました妾は、夫と愛児の行方を探すために、色々と辛苦|艱難《かんなん》を重ねました後《のち》に、J・I・Cの情報主任と相成りまして日本に参り、××大使のお世話で当教会を借り受け、日曜|毎《ごと》に説教を致します体《てい》を装い、日本内地に働いております、J・I・C団員の情報を集配《レポート》致しておったのでございますが、その傍《かたわ》ら、古い縁故を辿りまして外務省の英文タイピストの職に就き、日本の機密に属する暗号電報を盗み写しまして、米国紐育イースト・エンドのJ・I・Cの本部に送達致す仕
前へ 次へ
全471ページ中163ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング