…とすればこの事件の全体が非常にハッキリして来る。これがその女を犯人と認める第二の理由……」
 ここまで説明して言葉を切ると、耳を澄ましていた一同は各自《てんで》に夢の醒めたような顔を上げた。そうして如何にも感服した体《てい》で私の顔を見た。飯村部長は低い嘆息の声さえ洩らした。
 しかし私はその時に何だか妙に腹が立って来た。これ位の事に感心して刑事事件に足が突込めるものかと思った。そうして……よし……それではここでもう一つ吃驚《びっくり》するものを見せてやろう……と思った矢先に、感心しながらもじっと考えていた熱海検事と志免警部の口から同じ質問が同時に出た。
「その女の特徴は……」
「こっちへお出でなさい」
 と云いながら私は入口の扉《ドア》を押し開けて廊下へ出た。そうしてあとから続いてぞろぞろと出て来た十名の先に立って、階段の降り口の処まで来ると、懐中電燈の光りで床の上の女の靴痕を指し示して、
「これをよく御覧なさい」
 と云った。
 十名の連中は代る代る腰を屈めて床の上を熟視した。そこは階段の向うに在る明り取りの窓から外の光りが明るく指し込んでいたが、それでも自分の懐中電燈の方が強く輝いていた。その光りの輪の中に印されている、あるかないかの二つの靴痕の上に、私の推理力は一人の女を連れて来て十四号室の方に向って立たせた。私はその姿を皆によく飲み込ませるために、多少の想像を加味しながら、十人に聞えるだけの低い音調で、順を逐《お》うて説明し出した。
「……この淡《うす》い靴痕が女のものである事は説明するまでもないであろう。爪先はこの通り稍《やや》外向きに開いていて、ちょっと見たところ西洋人のように思えるが、それは歩いている間だけで、このボーイの靴痕と向い合って立ち止まった処を見るとこの通り、ずっと爪先が近づいていて、生れ付き真直ぐか、内股に歩くように出来てる日本の女の足の特質を、不用意のうちに暴露している。これは随分永く外国で生活した日本人にでもよく見受ける習慣で、支那人や朝鮮人には絶無と云って差支《さしつかえ》ない。背丈は靴の長さと歩幅であらかた推測出来るものであるが、歩幅はこのような精神の緊張した場合には、非常に違うものだから除外するとして、靴の長さだけで推定すると、日本の女の足としては幾分細長い方で、ちょうど銀行に金を受取りに行った田中春の背恰好と一致する。それに
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