樫尾大尉のこの無造作な一笑は、聞いている一同の胆を奪うのに十分であった。それは米国何者ぞという日本政府の意気込みを暗示していると同時に、一介の少年呉井嬢次の功績の想像も及ばぬ偉大さを十分に裏書するものであったから……。
その一同の気を呑み、声を呑んだ緊張の裡に樫尾大尉は改めて繃帯をした頭を下げると、傍《かたわら》をかえり見て、睡《ねむ》たそうな顔をしておられるカルロ・ナイン殿下の手を率《ひ》きながら辞し去った。
出て行きがけにカルロ・ナイン殿下は行儀よく頭を下げて、
「……サヨウ……ナラ……」
と云われた。その無邪気さと気高さに、一同は思わず最敬礼をさせられた。志免警視は玄関に詰めている刑事の中の二名に淀橋まで見送らせた。
あとを見送った私は、室《へや》に帰ると、死骸の始末も何も忘れたまま机の前の肘かけ椅子にどっかりと身体《からだ》を落し込んだ。急にぼんやりとなって来た眼の前の空気を凝視しながら、太い溜息と一緒につぶやいた。
「……わから……なかった……」
そうしてうとうとと眼を閉じかけた。たまらなく睡くなって来たので……。
「あっはっはっはっはっはっ」
と志免警視が明るい声で笑い出した。矢張り死骸の事も忘れる位いい心持になっているらしく、私の真向いの椅子にどっかりと反り返りながら……、
「……わっはっはっはっ。流石《さすが》の課長殿も一杯喰いましたね。はっはっ。しかし今度の事件は全く意外な事ばかりだったのです。第一ハドルスキーが樫尾大尉という事は、僕ばかりでなく、松平局長も二三日前まで知らなかったそうですからね。一方に、あの曲馬団をあれ程に保証した××大使が今になって急に、あんなものは知らないとあっさり突き離すだろうとは樫尾大尉も思わなかったそうです。……僕等は又僕等で、あの曲馬団で無頼漢《ごろつき》どもが、日本の警察を紐育《ニューヨーク》や市俄古《シカゴ》あたりの腰抜け警察と間違えるような低級な連中ばかりだろうとは夢にも思いませんでしたからね。新聞記者を連れて行けば、こっちの公明正大さが大抵わかる筈と思ったんですが……何もかも案外ずくめでおしまいになっちまいましたよ。はっはっはっ」
「おかげ様で本望を遂げまして……」
と志村のぶ子が相槌を打った。
「……いやア……貴女《あなた》方の剛気なのにも驚きましたよ」
と志免警視はどこまでも明るい声で調子
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