だれたまま、扉《ドア》の鴨居から床の上まで長々と裾を引きはえて吊り下がっているのであった。扉《ドア》を開けた拍子に動いたらしく、青い静脈を透きとおらした両手を、すこしばかり左右にぶらぶらさせていたが、それも間もなく動かなくなってしまった。
その顔を見上げていたゴンクール氏の舌が微かにふるえ出した。髪毛が一本一本に静電気を含んだかのように立ち上り初めた。その口を開《あ》いたままの咽喉《のど》がひくりひくりと動き出し、やがてぐるぐると上下したと思うと、遠い凩《こがらし》に似た声が、氏の全身の力を絞って戦《おのの》き出た。
「……ノブコ……シ……ム……ラ……」
その声がまだ消えないうちに室《へや》中を震撼する大音響が起った。青ペンキ塗りの扉《ドア》がぴったりと閉まったのだ。ゴンクール氏が閉めたのだ。続いて今一つ別の大音響が起った。女の前の丸|卓子《テーブル》がゴンクール氏の足の下で横たおしになった。その上からけし飛んだ珈琲器の一群が、左手の扉《ドア》に跳ねかかって切るような悲鳴をあげた。
その悲鳴を蹴散らしながら、その扉《ドア》を垂れ幕ごと引き開いて、外に飛び出そうとしたゴンクール氏は又も……ウウウ……と締め殺されるような声を出して背後によろめいた。襟《カラ》を引き除《の》け、ネクタイを引き千切《ちぎ》り、辷《すべ》りたおれようとして踏み止まりつつ、もう一度走り寄って、眼の前の物体を覗き込もうとした。夢中になって掴みかかるべく身を藻掻いた。
しかし……氏の眼にはもう何も見えないらしかった。
恐らくそれは氏の最後の努力であったろう……二三度虚空を掴みまわった。天に掻きのぼるかのように身を反《そ》らして爪立ち、又爪立った。そうして空間の何物かをしっかりと掴み締めたまま、次第次第にのけ反《ぞ》って行った。忽ち※[#「※」は「てへん+堂」、第4水準2−13−41、355−6]《どう》という大音響を室《へや》中にゆらめき起しつつ、椅子の向う側の壁の附け根に長くなった。
……あとには首のまわりに紫の紐を千切れる程喰い込ませた嬢次少年……今日の昼間に見た時の通りの扮装の美少年が、土色に透きとおったまま、入口の闇にぶら下って、きりりきりりと、ゆるやかに廻転し初めていた。
……室《へや》の中は旧《もと》の静寂にかえった。
……私の頭髪がざわざわざわざわと走り出しかけて又ぴっ
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