のうちに、彼等が借切りいる同ホテル東北側の一隅階上二八六、二八二号の二室に逃げ込み、固く扉《ドア》を閉ざし、廊下に面する入口前には携帯機関銃を据え付け、窓を開放して、カーテンの蔭よりピストルを発射し群り寄る警官を寄せ附けず。


     双方死傷者数十名[#大文字、太字]
       警視総監自身出馬[#大文字]
         志免警視とハ氏の殊勲にて落着[#大文字]
      宿泊者は日比谷公園に避難[#中文字]

 この時自身出馬して現場に駈け付け来《きた》れる高星総監は、部下に命じて帝国ホテル内の宿泊者全部を日比谷公園に避難せしめ、附近一帯の交通を遮断し、二八六、二八二号両室に窓より出ずる者を容赦なく射殺すべきを命じ、一方ハドルスキー氏に依頼してホテル内に入《い》らしめ、彼等を説服せしめんとせしに、彼等は携帯機関銃を連射してハドルスキー氏を廊下に入らしめず、遂に同氏の頭部に負傷せしめたり。ここに於て第一捜査課長志免警視は総監の許可を得、部下数名を率い、同二室の街路に面せるバルコンに登り、窓口より逮捕に向わむとせしに、この状態を察知したる団員の数名は、四個の窓より一斉にピストルを乱射し、警官三名、街路上に残りおりし見物人数名に重軽傷を負わしめたるを以て近寄る能わず。然るにこの時、一時気絶しおりたるハドルスキー氏は、自ら繃帯して街路に出て来りしが、この状勢を見るや、鮮血に染みたるまま続いてバルコンに登り、壁添いに窓に近附きて大声に彼等を説服し初め、彼等のうち二三名が窓より首を出して同氏を狙撃せむとするや、自己の拳銃《ピストル》にて瞬く間に彼等を撃ち竦《すく》め、彼等が窓外に落したる拳銃《ピストル》を拾い取りて単身二八二号室の窓口より躍り入り、窓際に潜みいるヤヌヌ、カヌヌ兄弟を左右に撃ちたおし、デスクを楯に取りて物凄き射撃戦を開始せり。一方志免警視の一隊もこの形勢を見るより一斉に二八六号室の窓口より乱入し、機関銃手二名を射殺し、残余の者を威嚇して手錠を受けしめ、転じて二八二号室の扉《ドア》を背面より破壊し、猛烈に抵抗する二三の支那人を射《うち》たおしたるを以て浴室に逃げ込みたる残余の五六名は再び抵抗せず。一列に手錠を受け警視庁に収容せらるに至りたり。一方死傷者はそれぞれ、丸の内綜合病院、及び帝国ホテル前|槻原《つきはら》整形外科病院に収容したるが、警察側死
前へ 次へ
全236ページ中214ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング