。そんなにジョージは悪い人です。貴女《あなた》を本当に愛しているのではありません。
貴女は愛《ラブ》のためにジョージが入り用でした。けれどもジョージは悪い仕事をするために貴女が入り用だったのです。貴女を使ってミスタ・サヤマを困らせて、おしまいにミスタ・サヤマを欺して、遠い処へ逃げるために貴女を欺したのです。
貴女は最早《もう》ジョージの事を忘れなければいけませぬ。ジョージより他に貴女を幸福にする者沢山居ります。わかりましたか……」
ストーン氏の説教は子供を賺《すか》すように親切であった。その眼は人種の区別を忘れた友情に輝き、その口元は熱誠のために微かに震えて、自分の心持をどうしたら相手の胸の中に注《つ》ぎ込もうかと苦心しているようであった。
すべて男がこうした態度を執る時……殊にストーン氏のような男らしい風采と、溢るるばかりの野性的な元気に充ち満ちた男性が、このような敬意と熱誠を示す時、相手の女性は最も甚だしく心を掻き乱され、引き付けられるものである。けれども彼女は何等の感動をも受けた模様はなかった。最初の通りの固くるしい姿勢に返って、膝の上のハンカチを凝視《みつめ》ているきりであった。
この体《てい》を見ていたストーン氏は、やがて駄目だという風に椅子に背を凭《も》たして、残り惜しそうに女を見つつ、そっと眼を閉じて眉を寄せた。
その時にストーン氏の背後にかかっている柱時計が余韻の深い幽玄な音を立てて、ゆっくりと時を報じ初めた……一ツ……二ツ……三ツ……四ツ……五ツ……六ツ……七ツ……。
……八ツの音を聞くとストーン氏は驚いたように眼を挙げて時計を見た。そうして少し慌てたように胴着から太い白金の懐中時計を出して見たが、落ち着いてそれを仕舞い込んで、最初の礼儀正しい紳士の態度に帰りつつ口を啓《ひら》いた。
「……お嬢様……私はもう帰らなければなりません。けれどもまだ一つ、貴女《あなた》にお尋ねしたい事があります」
「はい。何なりと……」
女の返事は何だか男のように響いた程、明晰であった。屹《きっ》と顔を上げて相手を見た。ストーン氏はその顔をしげしげと見ていたが、やがて、事務的な……しかし極めて丁寧な口調で問うた。
「ジョージ……さんは貴女に、この室《へや》を飾るわけを話しませんでしたでしょか」
「はい。申しました」
「何のためにですか」
「嬢次様は今日の
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