の手に渡すという事は嬢次様にとっては生命《いのち》を渡すのと同様でございます。それ位の事がわからなくて、どうして警視庁の捜査課長が勤まりましょう。又、これ程までにして頼まれました事を否《いや》と云うような無慈悲な叔父でない事は妾もよく存じておるのでございます」
 ストーン氏は心持ち肩をすぼめたまま、そう云う女の顔を凝視していた。いつとなく雄弁になって来る女の鋭い理詰めと、その理詰めを通じて判明《わか》って来る女の頭のよさに呆れ返っているらしい。しかし間もなく咳払いを一つして、七時三十五分を指している背後の時計を振り返ると、元の通りの寛《くつろ》いだ態度に返ったのは……高《たか》の知れた女一匹……という気になったものであろうか。それとも私がまだ暫くは帰って来ないという女の言葉を信じて、安心をしたせいでもあろうか。
「それからその手紙を、どうしてミスタ・クロダ・サヤマに渡しましたか」
「叔父はそれから曲馬場をまわって、東京駅ホテルの前に行って、二階の窓の一つを見ながら突立っておりました」
「……それは何故ですか」
「何故だか解りませぬ」
「何分位居りましたか」
「五分ばかり」
「そしてどこへ行きましたか」
「それから駅前の自動車の間をゆっくりゆっくり歩いて、高架線のガードの横を東京府庁の前に出まして、鍛冶橋を渡って、電車の線路伝いに弥左衛門町に這入って、カフェー・ユートピアの前に立って、赤い煉瓦の敷石を長いこと見つめておりました」
「それは何故ですか」
「何故でございましたか……何だかふらふら致しておるようでございましたが、そのうちに二階に上って行きましたから、妾《わたし》共二人もあとから上って参りました」
「えっ……二人で……」
「はい……」
「見付かりませんでしたか」
「いいえ。叔父は西側の窓に近い卓子《テーブル》の前に坐って何かしら眼を閉じて考え込んでいるようでしたから、妾たちはその隣の室《へや》の衝立《ついた》ての蔭に坐って様子を見ておりますと叔父も何かしら二皿か三皿|誂《あつら》えて、妾たちの居ります室《へや》のストーブのマントルピースの上をじっと凝視《みつめ》ておりました」
「その時にも見付けられませんでしたか」
「何か考え事に夢中になっている様子で、室《へや》の中に誰が居るか気が付かぬ風付《ふうつ》きでございました。そうしてぼんやりとした当てなし眼をしなが
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