に過ぎなかったのか。
……私はやはりここに来てはいけなかったのか……。
……うっかりするとこの女を殺すことになるのか……。
そんな予感の雷光《いなずま》が、同時に十文字に閃めいて、見る見る私の脳髄を痺《しび》らしてしまった。しかも、それと反対に、室内《なか》の様子を覗《うかが》っている私の眼と耳とは一時に、氷を浴びたように冴えかえった。
バード・ストーン氏は幕を引き退《の》けた入口の扉《ドア》の前に、偶像のように突立っている。その眼は唇と共に固く閉じて、両の拳《こぶし》を砕くるばかりに握り締めている。血色は稍《やや》青褪めて、男らしい一の字眉はひしと真中に寄ったまま微動だにせぬ。
女はそれに対してうなだれている。顔色は光を背にしているために暗くて判らないが、鬢《びん》のほつれ毛が二筋三筋にかかって慄《ふる》えているのが見えた。
やがてストーン氏は静かに両眼を見開いたが、その青い瞳《め》の中には今までと全《まる》で違った容易ならぬ光りが満ちていた。相手が尋常の女でない事を悟ったらしい。氏は又も室《へや》の中をじろりと一度見廻したが、そのまま眼を移して女の髪の下に隠れた顔を見た。そうして低いけれども底力のある、ゆっくりした調子で尋ねた。
「貴女《あなた》はどうしてそれがわかりますか」
「……………」
女は答えなかった。黙って懐中《ふところ》から一通の手紙を取り出してストーン氏の眼の前に差し出した。
それは桃色の西洋封筒で、表には何かペンで走り書きがしてあって書留になっている。ストーン氏は受け取って、先《ま》ず表書を見たが、ちらと女の方に上眼使いをしながら、裏を返して一応|検《あらた》めてから封じ目を吹いた。中からは白いタイプライター用紙に二三十行の横文字を書いた手紙が出て来たが、それを手早く披《ひら》いて読んでいるうちに、その一句一句|毎《ごと》にストーン氏の顔が緊張して来るのがありありと見えた。それに連れて読んで行く速度が次第に遅くなって、処々《ところどころ》は意味が通じないらしく二三度読み返した処もあった。
読み終るとストーン氏は、そのまま封筒と一緒に手紙を右手に握って、又、女の顔をジッと見た。その顔付きは罪人に対する法官のように屹《きっ》となった。静かな圧力の籠《こも》った声で問うた。
「今まで貴女《あなた》が、ジョージ・クレイと話しをする時に、
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