役者は両方とも極めて真剣である。すくなくとも男の方は一方ならず感心しているらしい。いつの間にか女の美貌と、その巧妙な話術に引き込まれて、肝腎の用向きも何も忘れた体《てい》である。ストーン氏は又もすこし躊躇しながら、微笑しいしい問うた。
「……失礼……御免下さい。私は先生は本当に一人かと思っておりました」
「え……」
と女は質問の意味がわからなかったらしく顔を上げた。ストーン氏はいよいよ躊躇した。
「……失礼……おゆるし……なさい。狭山さんは、いつもほんとうに一人でこの家に暮しておいでになる事を、亜米利加《アメリカ》で聞いておりましたが……」
女はちょっとうなずいた。けれども返事はしなかった。ストーン氏はとうとう真赤になってしまった。
「……大変に……失礼です。先生は……貴方《あなた》のお父さんですか」
女はやっと莞爾《にっこり》してうなずいた。そうして心持ちSの字になって、うなだれた。
「はい。狭山は妾《わたくし》のたった一人の親身の叔父でございます。妾も亦叔父にとりましてはたった一人の姪《めい》なのでございますが、いつも妾を本当の子供のように可愛がってくれますから、本当に父になってくれるといいと……いつもそんなに思っているのでございます」
といううちに今度は女の方が耳まで真赤になってしまった。
この真に迫り過ぎた名優振りには、流石《さすが》の私も舌を巻かざるを得なかった。……これ程のすごい技倆《うで》を持った女優は、西洋にも日本にも滅多に居ないであろう。リスリンの涙を流す銀幕スターなんか糞《くそ》でも喰らえと云いたい位である。現在嘘と知っている私でさえも、まともにこの女の手にかかったら嘘と知りつつパパにされてしまうかも知れない……と気が付くと、思わずぞっとさせられた位であった。まして何も知らないストーン氏が、どうして参らずにおられよう。如何にも尤《もっと》も至極という風に幾度も幾度もうなずかせられたのは、はたから見て滑稽とはいえ、当然過ぎるほど当然な事であった。
「……そうですねえ。ほんとうにそうですねえ。それでは、いつでもお二人でこの家にお出でになるのですねえ」
「いいえ……あの……一緒には居ないのでございます」
と女はすこし顔を上げた。
「……平生《ふだん》は妾は遠方の下宿に居るのでございますが、叔父が家《うち》を留守にする時には、いつもどこからか
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