に紛れて狙い撃ちにするのは訳ない事であった。
 電車が二つばかり轟々《ごうごう》と音を立てて私の背後《うしろ》の線路を横切った。ユーカリの枯葉が一二枚、暗《やみ》の空から舞い落ちて微かな音を立てた。
 その音を聞くと、急に私は自分の臆病さに気付いて可笑《おか》しくなった。
 二十何年間の探偵生活に鍛え上げられた自分の神経を思い出しつつ人通りの絶えたのを幸いに抜き足さし足窓の所に近付いた。ちょうど窓の右手の処にこんもりした椿の樹が立っていて、暗《やみ》の中に赤い花を着けている。その蔭に身を寄せて、窓の隅に映っている丸い影法師……それは卓上電話の頭であった……の中央にあるドローン・ウォークの編み目から内部を覗いた。
 すぐに室《へや》の中の様子がすっかり変っているのに気が付いた。つい五六時間前に、少年嬢次と話をした時まで、樅《もみ》の板壁に松天井、古机に破れ椅子というみすぼらしい書斎の面影は跡型《あとかた》もなくなっている。
 四方の壁は印度更紗《インドさらさ》模様を浮かしたチョコレート色の壁紙で貼り詰めてある。天井には雲母刷《うんもず》り極上の模様紙が一等船室のように輝いている。床には毒悪な花模様を織り出した支那産の絨毯が一面に敷き詰めてあるし、窓に近い壁際の大机と室の真中の丸|卓子《テーブル》には深緑色のクロス。又、その丸|卓子《テーブル》を中にして差し向いに据えられた肘掛椅子と安楽椅子には小紋|縮緬《ちりめん》のカヴァーがフックリと掛けられている。
 そのほか窓際の小卓子《テーブル》の上に載っている卓上電話機の左手の大机の上に、得意然と輝いている卓上電燈の切子笠。その横に整然と排列されている新しい卓上書架。その上に並んだ金文字のクロス。凝った木製のペン架け。銅製のインキ壺。それから真中の丸|卓子《テーブル》の上に並んでいる舶来最上の骨灰焼《こっぱいや》きらしい赤絵の珈琲《コーヒー》機。銀製の葉巻皿と灰落し。……いずれを見ても成金《なりきん》華族の応接間をそのまま俗悪な品物ばかりである。
 ところでその中にも、この強烈な配合を作っている飾付けの全部を支配して、室《へや》中の気分を一層強く引き締めているものが三つある。その一つは正面の壁に架けてある六号型マホガニーの額縁で、中には油絵の裸体美人が一人突立って、両手を頭の上に組んで向う向きに立って草原の涯《はて》に浮かむ
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