、これによって重大な事件を解決した例は一つや二つでない。勿論科学的な研究や観察を基礎とした推理なぞを決して軽く見ている訳ではないが、場合によってはそんなものが全く役に立たなくなって、いくら研究して、推理して見ても、考えは唯同じ処をぐるぐる廻るばかりのみじめな状態に陥る事がある。
大抵の人間はそんな時にすっかり失望して終《しま》って、とても駄目だと諦めて終《しま》うようであるが、私は決してそれを諦めない。なおの事一心不乱になって考え続けて行く。そうすると全身の神経の作用が次第に求心的に凝《こ》り集まって、あるかないかわからない無色透明の結晶体みたようになってしまう。その時に第六感が煌々《こうこう》と、サーチライトを見るように輝き出して、事件の焦点を照し出したり、行くべき方向を示したりするから、それに依って猶予なく敏速な活動を開始する事が出来る。但し、そんな場合に何故そんな風に私が動き出して行くのかという理由は、説明しようとしても説明出来ないのだから、私は難事件になればなる程たった一人で仕事をする事になる訳である。しかもそんな場合に傍《はた》から見ていると、私の行動はまるで狂人《きちがい》のように感じられるそうであるが、その結果を見ると又、奇蹟としか思わない事が多いそうである。これは普通人ばかりでなく私と同じ仕事をしている連中でもそう感じるそうで、現にこの間私を免職した高星総監なぞも、
「君はまるで魔法使いのようだ。事件と何の関係もない事実を見付けては寄せ集めて、その中に事件の核心を発見する」
と云って舌を捲いた位である。しかし事実は不思議でも何でもない。普通人が常識の範囲内でだけしか仕事が出来ないのを私は「第六感」の範囲まで神経を高潮させて仕事をするからで、現在たった今私がカフェー・ユートピアを飛び出すと一直線に「新宿へ」と命じたのもその最適当した一例であろうと思う。
この時の私はただ「第六感」ばかりに支配されていた私であった。
初めカフェー・ユートピアでボーイが私に紫の包みを渡すべく差出した時に、私は殆んど睡りから覚めかけていた。そうして、いつの間にか不思議にがら空《あ》きになっているカフェーの片隅に、たった一人で静かに眼を閉じていると、疲れが休まった身体《からだ》の中にずんずん血がめぐって行く快よさと、頭の中の神経細胞がちゃんと秩序を回復していて気を付けの
前へ
次へ
全236ページ中156ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング