本物のジョージ・クレイだったという事が解るんだそうです」
「ははあ。……何ですかそれじゃ貴方は昨日《きのう》御覧になったのじゃないですか」
「ええ……見ませんとも……友達がみんな話していたんです。このジョージ・クレイと今のカルロ・ナイン嬢がこの曲馬団の花形だって……」
「アハハハ……成る程成る程」
「……それから……その次の馬のダンスも面白いそうです」
と青年は慌てて云い足した。
「何でも最前から曲馬をやった伊太利や亜米利加の美人や、外にまだ大勢居る座附《ざつき》の女が、全部薄い着物を着た半裸体の姿で、数十頭の裸馬と入れ交って、あの楽屋口から練り出して来て、愉快な音楽に合わせながらダンスを遣るんだそうです」
「ハハハ……。それは嘸《さぞ》かし面白いでしょう。毛唐はそんな事を好くものですからナ」
青年ははっとしたらしく前後左右を見まわした。しかし近くに西洋人らしい者が居ないのを見て安心したらしかった。
一方場内には二十名ばかりの音楽隊が輪を作ってコロンビア・マーチを奏していた。義勇兵式の空色のユニフォームに金銀のモールをあしらった綺羅《きら》びやかなバンドで、歯切れのいい鮮かなピッチが満場をしんとさせていた。
私はその音楽を聞き、又前の二人の話に耳を傾けつつ、時計を出して時間を計《はか》っていた。そうして演奏が済むと同時に立ち上って、見物席の背後《うしろ》に出ようとした。その時にふと気が付いたが、私のすぐ真背後《まうしろ》の席にいつ来たものか十八九のハイカラな女優髷《じょゆうまげ》の女が、青い色眼鏡をかけて、片っ方の眼に薄桃色のガーゼを当てて坐っている。
もっともそれだけの事ならば別に私の注意を惹きはしない。眼の悪い女は、よくこうしているものだが、私が驚いたのはこの女が、眼元はよくわからないが実に絶世の美人で、最前のカルロ・ナイン嬢に優《まさ》るとも劣らぬ容色を持っている事である。この女を見ると私の持論の「日本美人は西洋美人の敵でない」という主張が、根元からぐら付き出したような気がした。しかも不思議にもこの女は、最前カルロ・ナイン嬢が持っていた紫のハンカチと、同じような色の、同じ位の大きさのハンカチを軽く口の処に当てているのであるが、それが又、この女の着ている派手《はで》な紫色の錦紗縮緬《きんしゃちりめん》の被布《ひふ》や着物と一緒に、化粧を凝《こ》らしたこ
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