目が終る迄に私はふと妙な事に気が付いていた。ちょっと見たところ、五頭の馬はカルロ・ナイン嬢の銀の鞭で支配されているようであるが、実はそうでない。いつも嬢の直ぐ次に馬を立てるあの色の黒い、鬚武者の巨漢《おおおとこ》が、眼色や身振りで、自在に操っているのである。これは卓子《テーブル》飛び越しの最中に見付けた。それからもう一つはカルロ・ナイン嬢の馬の乗り方があまり上手でない事である。もちろん普通には乗《のり》こなしているに違いないが、他の連中の馬術があまり達者過ぎるために、際立って危なっかしく無調法に見える。しかしこれは、いくらか乗馬の経験を持っている私にそう見えただけで、軽業《かるわざ》見物のつもりで来ている連中には気付かれないかも知れない。
 ところでこれだけの事ならば、別に不思議はないようなものであるが、今の第一周目で、五頭の馬が私の前を馳《は》せ過ぎる時に、中央の白馬に乗っているカルロ・ナイン嬢と、その次に馬を立てている鬚武者とが二人ともちらりちらりと私の顔を見て行ったのを見逃す事は出来なかった。或《あるい》はずっと二三間前から私を見詰めて来たもので、私はただ双眼鏡のレンズに入った間だけしか見なかったのかも知れないが、とにかくその二人の眼は、偶然に私を見た眼付きではなかったようである。二人とも何かしら同じ秘密の意味を以て、私の顔を注視して行ったものとしか思われなかった。
 ……咄嗟の間に私の頭の中はぐるりと一廻転した。
 この曲馬団を真先に……まだ全部が日本に到着しない以前から怪しいと睨んだのは、誰でもないここに居る私で、そのために私は警視総監と意見を衝突さして辞職した位である。そうして今日はその正体を見定めに来ている私である。一つは警視総監の鼻を明かし旁々《かたがた》、呉井嬢次の讐討《かたきう》ちの助太刀《すけだち》をするに就いて、準備的の偵察をこころみるために……それからもう一つは嬢次少年が、生命《いのち》に拘る大切なものを蔵《かく》しているという黒い手提鞄《てさげかばん》を、是非とも楽屋から盗み出しておかねばならぬというので、それを手伝ってやるためにわざわざ出かけて来た者である……が……それを彼等二人は感付いているのであろうか……否……否……そんな事は有り得べき道理がない。この大勢中に、どうして私を見付けられよう。
 殊に……私は変装をしている。胡麻塩《ごま
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