して動かす事が出来ない。現在私の手中にある。
 ……この少年は果してそのような古今の名探偵に比すべき頭脳を、今から備え持っているのであろうか……。
 ……それともこれが世にいう親子の因縁……もしくは目に見えぬ魂の引き合わせとでもいうものであろうか。
 かよう考えて来ると私はもう、自分の考えに堪えられなくなって、思わず遺書をパタリと閉じて、机の上に置いた。居住居《いずまい》を正して少年に問いかけた。
「……成る程……わかりました。しかし君は今しがた、お母さんが何者にか殺されたと云いましたね」
「ハイ……」
 少年は依然として淋しそうな顔を上げた。その睫は涙のために乱れていた。しかし言葉はハッキリとして落ち着いていた。
「ハイ……申しました」
「……その事実はどうして解ったのです」
「だって……生きている筈がないんですもの……」
 と云ううちに少年は又も力なくうなだれてしまった。
「……ハハア……それじゃ、お母さんからのお消息《たより》が、それから後《のち》ちっともないのですね」
 少年はうなずいた。
「……成程《なるほど》。君が曲馬団に居るとすれば、お母さんが何等かの方法で会いに来ない筈はない。すくなくとも無事で居る事を君に知らせない筈はない。それが何の頼りもないところを見れば誰かの手にかかって殺されておられるに違いない。しかも誰かの手にかかって殺されているとすれば、その手はW・ゴンクールの手に違いない……という三段論法が成立する訳ですね」
 少年は前よりも強くうなずいた。どうやら唇を噛んでいるらしい態度である。
「……成程……それでその復讐をするために僕の手伝いを求めに来たのですね」
 少年は微かにうなずいた。又もハンカチを顔に当てて肩を窄《すぼ》めた。
 私は、その姿を見ると堪《た》まらなくなって、机の上に両手を支えた。頭を幾度も幾度も下げて謝罪《あやま》った。
「……済まない……済みません。僕は君の御両親ばかりでなく君に対しても会わせる顔がないのです。僕は君等親子にこれ程の信頼を受ける価値はない人間です。僕は世間で云うような名探偵でも何でもありませぬ。凡クラな、トンチンカンなヘボ探偵に過ぎないのです。それは君にだって解っているでしょう。……それだのに、こんなにまで信頼を受けてはトテモ僕はたまらないのです……こんな、老耄《おいぼれ》のヘボ探偵を、どうして君がそんな
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