人を使って容赦なく実行させるようにしておりますから、団結の鞏固《きょうこ》な事は非常であります。その仕事の如何に敏活なものがありますかは、小生がM男爵の手に暗号を渡して後《のち》、一夜も経たない中《うち》に小生の死刑を宣告し、一週間も経たないうちに応急的な暗号の鍵を送って、妻ノブ子の死刑を宣告して来たのを御覧になってもお察し出来る事と思います。
最後に今|一言《いちごん》させて頂きます。小生は小生の妻子に対する貴下の御庇護に関する私的御費用の一端として、藤波弁護士の手に保管中の二万円也を貴下に捧呈させて頂きたいのであります。但し、清廉なる貴下は、或《あるい》はこの金を不浄の金としてお受取りにならないかも知れませぬが、しかし貴下よ。由来国際間の事は、人道と法律とを超越したものであります。小生が人類の敵たる秘密結社に反逆を企て、その秘密を発《あば》く事が、国家的立場より見て許されるものでありますならば、小生がこの金をJ・I・Cから奪ったとしましても決して罪悪ではありますまい。況《いわ》んやこの金は日本人の財産を奪ったものではありません。日本を不利の地位に陥れむとするウオル街の全権代表者より個人的に適法の手続《てつづき》を以て小生の手に渡り、合法的に小生の所有となったものでありますから、仮令《たとえ》小生が相手の望み通りの仕事を遂行しなくとも、先方から返還を要求すべき性質のものではありません。況《いわ》んやこの金の代償として要求されている仕事が不正であるに於ては尚更《なおさら》の事であります。小生の妻にはこのような道理を説明してもわかるまいと思いましたから他の意味の金と云って取らせておきましたが、貴下には正直に所信を告白致します。願わくば国家のため、又は小生の妻子のため、枉《ま》げて御受領賜わりまするよう伏願致します。
狭山氏よ。貴下にお願い申上げたい事、又はお知らせ申上げたいことはこれで終りました。
小生はかようにして「非国民」もしくは「無頼漢」なる汚名の下に唯一人淋しく葬られなければならぬ運命に立ち至りました。これは小生が自ら求めましたところで、天地の間、どこの何人《なんぴと》を怨みようもありませぬ。
でありますからして小生は仮令《たとえ》貴下がこの遺書を一笑に附して小生の希望をお容《い》れにならず、あの金は没収、もしくは寄附等となして、小生の妻子の保護は結局
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