す。それで、J・I・Cの団員は、あたかも羅馬《ローマ》に於ける最初の基督教の布教者と同様の厳重なる秘密組織と致しまして、団員は一人一人に殉教者となる覚悟をもちまして各国に紛れ入り、その国の好戦的準備を妨害致す仕事を致しておりますので、妾の夫志村浩太郎は、その西部首領の仕事を引き受けておりましたものでございます。
 又、一方に、その志村浩太郎の妻と相成っておりました妾《わたし》は、或る恐ろしい事情のため、久しい以前から夫と、一人子の嬢次と三人、離れ離れになっておりました者で、その後、寡婦と同様の境遇に陥りました妾は、夫と愛児の行方を探すために、色々と辛苦|艱難《かんなん》を重ねました後《のち》に、J・I・Cの情報主任と相成りまして日本に参り、××大使のお世話で当教会を借り受け、日曜|毎《ごと》に説教を致します体《てい》を装い、日本内地に働いております、J・I・C団員の情報を集配《レポート》致しておったのでございますが、その傍《かたわ》ら、古い縁故を辿りまして外務省の英文タイピストの職に就き、日本の機密に属する暗号電報を盗み写しまして、米国紐育イースト・エンドのJ・I・Cの本部に送達致す仕事を受け持っていたのでございます。これは妾と致しまして誠に申訳もない浅ましい所業でございまして、このために貴方《あなた》様からお仕置を受けますような事に相成りますならば、少しもお怨み申上げる筋はないのでございますが、「世界の平和のため」という美しい標語に眼を眩《くら》まされておりました妾はついこの頃まで少しもそのような罪に気付きませず、むしろ日本のためと存じまして、非常な善《よ》い事を致しておりますような気持で、暗号電報の盗読を仕事と致しておったのでございます。
 ところが、そのような愚しい仕事を致しつつこの二三年を打ち過しておりますうちに、妾の斯様《かよう》な所業が、人間として最も浅ましい売国の重罪に当りますばかりでなく、J・I・Cの仕事の内容そのものが世界の平和と、正義人道のために許すことの出来ませぬ、最も憎むべき性質のもので、妾の夫と愛児と、日本民族とを同時に亡ぼそうとしているものでございます事が、判然致します時機がまいりましたのでございます。
 それはほかでもございませぬ。
 本年六月の初め頃になりましてJ・I・Cの西部首領と相成っております有力な日本人、K・NO・1(J・I・
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