その理由《わけ》はお眼にかゝつて話します。色恋でも金のためでもありませぬ。日本のためです。信じて下さい。十四日午後五時に半蔵門停留場にお出でなさい。貴女《あなた》はいつもの黒い服。私は黄色い鳥打帽子。運転服。かしを。
[#ここで字下げ終わり]
赤い線は一頁に二つか一つ半位の割合で附録詩篇の四十六篇の標題、
――女《をんな》の音《こゑ》の調《しら》べにしたがひて……。
という処まで行って、おしまいになっている。
いつの間にか起き上って、眼を皿のようにしていた私は、聖書をピッタリと閉じて老眼鏡を外すと黒い表紙の上をポンと叩いた。そうして思わず、
「成る程。わからない筈だ」
と叫びながら音楽堂の上の青い空を仰いだ。
今まで私の眼の前を遮っていた疑問の黒幕がタッタ今切って落されたのだ。そうしてその奥に更に大きな、殆んど際涯《はてし》もないと思われる巨大な、素晴らしい黒幕が現出したのだ。
元来米国と欧洲の瑞西《スイス》は、世界各国の人種が出入りするために、各種の秘密結社の策源地のようになっている。その中でもJ・I・Cというのはどんな種類の秘密結社か知らないが、この文の模様で見ると米国に本部を置いているらしく、裏切者を片《かた》ッ端《ぱし》から死刑に処するのを見ても、その組織の厳重さと、仕事の大きさが想像される。しかも迂濶な話ではあるが、そんな強烈な秘密結社の支部が日本に設置されている事は、今日が今日まで私も知らなかったので、恐らく外務省なぞも同様であろう。況んや、その支部にしむらのぶこ[#「しむらのぶこ」に傍線]と呼ばれる怪美人やりん、ゆう、せき[#「りん、ゆう、せき」に傍線]と呼ばれる留学生や、かしを[#「かしを」に傍線]と名乗るタクシー運転手らしい男なぞが属していて、何等か秘密の活躍をしていた。そうして裏切者の岩形圭吾を問題にして、何かしらごたごた遣っていた……なぞいう事をどうして、何人《なんぴと》が察し得よう。
……しかし最早《もはや》逃がさぬぞ。J・I・Cの秘密をドン底まで叩き上げないではおかないぞ。……岩形氏を殺したのはJ・I・Cの黒幕の中から現われた手ではなかったか。そうして彼女は、その黒幕の蔭から現われ出て、岩形氏の急を救おうとしたものではなかったか。
……果然……果然……矛盾の本尊であった彼女は、今や、暗中一点の光明となった。そうして私が最初
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