話である。既に今まで述べて来た話の中でも、私は取り返しの付かない大きな見落しをやっているので、冷静な頭で読まれた諸君は最早《もはや》、とっくと気が付いておられる事と思う。そうしてこの狭山という男は、課長とか何とか偉そうな肩書を振りまわしているが、案外だらしのないそそっかし屋だ。おまけに下らないところで威張ったり、名探偵を気取ったりして、恐ろしく気障《きざ》な奴だ……とか何とか腹を立てておられる人が在るに違いないと思う。
しかしこれは誤解しないようにして頂きたい。
私は正真正銘のところ、私の名探偵振りを諸君に見せびらかすつもりでもなければ、自慢話を御披露したがっているのでもないのである。この記録の冒頭にもちょっとお断りしておいた通りの意味で、私の世にも馬鹿げた失敗談を公表しているに過ぎないのだ。世間から名探偵とか、鬼課長とか持ち上げられるのを真《ま》に受けて自分が豪《えら》いのだと確信していた私……いい気になって日本の探偵界を攪乱していたつもりの私が、どんな手順に引きずられて、知らず識《し》らずの中に、世にも恐ろしい秘密結社、J・I・Cの底知れぬ秘密の方へ惹き付けられて行ったか。そうして私の天狗の鼻が、如何に超自然な物凄い手で、鮮かに※[#「※」は「てへん+宛」、第3水準1−84−80、94−1]《も》ぎ取られて行ったか……というその時その時の気持ちを正直に告白しているつもりなので、もう一つ露骨に云うと、私のようなものをおだて上げて、こんな酷《ひど》い眼に会わしたその当時の日本の探偵界の悲哀を、今日現在の日本の名探偵諸君に首肯して頂きたいばっかりにこの筆を執《と》っている者である。
だから、これから先に記述する事実は、いよいよ得意になった私が、いよいよ失敗の深みに陥って行くところ……否……いよいよ失敗の深みに落ち込んで行きながら、いよいよ得意になって行くところ……いや……どっちにしても結局同じ事だが……そんな事ばかり書いて行かなければならぬので、読む方は面白いかも知れないが、書いて行く身になると実に辛い。書かない前から冷汗がポタポタと腋《わき》の下に滴《したた》る位である。
しかしその時の私は頗《すこぶ》る真剣であった。後になってこんな冷汗を掻くだろう……なぞとは夢にも考えない、探偵の神様気取りの私であった。
私はステーションホテルを出ると、たった一人で市役
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