向に足を伸ばしつつ、スヤスヤと睡りかけているのだ。
……その壁の向うの私も疲れている。考える力もないくらい睡《ね》むたがっている。そうしてその意識がグングンと零の方向に近付きつつある。無限の時空の中に、無窮の抛物線を描いて……グングンと……。
私はガバと跳ね起きた。眼がパッチリと醒めた。隣の室が覗《のぞ》いてみたくなった。
しかし私は闇暗《くらやみ》の中で半身を起したまま躊躇《ちゅうちょ》した。もし隣の室を覗いた時に、私と同じ私がスヤスヤと寝ていたとしたら、それはドンナに恐ろしい事だろう……とはいえ又、万に一つ隣の室に誰も居なかったとしたら、その恐ろしさが何層倍するだろう……と……。
私はそう思い思い何秒か……もしくは何分間か、眼の前の闇暗《くらやみ》の核心をジーッと凝視していた。凝視していた……。
……と……そのうちに或る突然な決心が私に襲いかかった。その決心に蹴飛ばされたように私は、素跣足《すはだし》のまま寝台を飛び降りた。宿直室を飛び出して、隣の室に通ずる、暗黒の廊下を突進した。
……するとその途中で何かしら真黒い、人間のようなものと真正面から衝突したように思うと、二
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