ナンセンス
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)可笑《おか》しいと

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)天地|開闢《かいびゃく》以来ある
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 私には「探偵趣味」という意味がハッキリとわからない。同時に「猟奇趣味」という言葉も甚だアイマイなように感じている。しかもその癖に、そんな趣味の小説や絵画はナカナカ好きな方で、つまらないと思う作品にまでもツイ引きつけられて行く。自分でも可笑《おか》しいと思っているが仕方がない。

 イッタイどうしてこんなに矛盾した心理現象が起るのだろう。
 そうした趣味の定義や範囲は、雲を掴むように漠然としているように、そうした趣味から受ける興味はどこまでも深刻痛切を極めている。それ等の作品の一つ一つの焦点は実にハッキリしている。脳味噌の中心にヒリヒリと焦げ付く位である。それでいて、あとから考えるとその興味の焦点と、自分の心理の結ばり工合《ぐあい》がサッパリわからない。探偵趣味で惹き付けられたのか、猟奇趣味で読まされたのか、わからない場合が非常に多い。わかってもその「探偵」とか「猟奇」とかいう趣味の定義は
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