の動静に注意を払いつつ時季を待っていた。これはその男の児に、Mの苗字を冠《かぶ》せるのを嫌ったのと、モウ一つは、T子の追求を避けるためであった。……というのは女としては珍らしい冴えた頭脳《あたま》を持っているT子がもし、Mの行衛不明と、如月寺の絵巻物の紛失事件を綜合して考えた場合には、遅かれ早かれ或る恐ろしい、一つの疑いに直面《ぶつか》るにきまっている。WとMが何故にあの絵巻物を欲しがったかという理由を色々と考えまわすにきまっている。そうして万に一つも女の頭の敏感さと、母性愛の一所懸命さとで、二人が絵巻物を欲しがっている、そのホントウの下心を想像し得るような事があったならば、何はともあれMに疑いをかけて、眼の色を変えて追いかけて来るであろう。場合によっては国境だろうが何だろうが乗越えて追求しかねない女である事が、Mには解り過ぎるくらい解っていたからである。
……然るにこれに対するWは、それと知ってか知らずにか、相も変らず悠々と落付き払っていた。自分の名前や行動を公々然と曝露していたのは無論のこと、『犯罪心理』だの『二重人格』だの『心理的証跡と物的証跡』なぞいう有名な研究を次から次に発
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