や伝説が絡《まつ》わり付いている程の御宝物なのですが、それはウッカリした者が見ないように云い触《ふ》らしたのが一種の迷信みたようになってしまったので、実はトテモ素晴らしい名画と名文章なのです。嘘だと思われるならば今、ここで御覧になっても宜しい。その上で御不用だったら今一度、私が御預りしても構いません。あすこの高い岩の蔭なら、誰も来はしないでしょう……と云ったかどうか知らないが、吾輩だったら、そんな風に云いまわして好奇心を唆《そそ》るのが一番だと思うね。果せる哉《かな》、呉一郎は美事に蹄係《わな》に引っかかった。岩の蔭で夢中になって絵巻物を繰り展げているうちに、スラリと姿を消して終《しま》うくらい何でもない芸当であったろう……いいかね……。
 ……それから次にその二年前のこと……すなわち大正十三年の三月二十六日に起った直方《のうがた》事件に移ると、あの当夜も、WとMは、たしかに福岡市に居たことになっている。……というのはその三月二十六日の前日の二十五日には、久方振りでこの大学の門を潜って、当時、精神病学教授として存命中であった斎藤博士初め、同窓や旧知の先輩、後輩に面会した後《のち》、総長
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