れた。そうして、まだ自分自身が夢から醒め切れないような気持ちで、おずおずと背後《うしろ》をふり返った。
私の背後に突立った若林博士は、最前《さっき》からの通りの無表情な表情をして、両手をうしろにまわしたまま、私をジッと見下していた。しかし内心は非常に緊張しているらしい事が、その蝋石《ろうせき》のように固くなっている顔色でわかったが、そのうちに私が振り返った顔を静かに見返すと、白い唇をソッと嘗《な》めて、今までとはまるで違った、響《ひびき》の無い声を出した。
「……この方の……お名前を……御存じですか」
私は今一度、少女の寝顔を振り返った。あたりを憚《はばか》るように、ヒッソリと頭を振った。
……イイエ……チットモ……。
という風に……。すると、そのあとから追っかけるように若林博士はモウ一度、低い声で囁《ささや》いた。
「……それでは……この方のお顔だけでも見覚えておいでになりませんか」
私はそう云う若林博士の顔を振り仰いで、二三度大きく瞬《まばたき》をして見せた。
……飛んでもない……自分の顔さえ知らなかった私が、どうして他人の顔を見おぼえておりましょう……
といわんばか
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