観念が呉一郎の頭の中で、次第に一つの焦点に統一されて、余程、正気に近付いて来たらしい。つまり『考えても解らないが、いずれその中《うち》に解るだろう』というような、一種の諦らめに似た安心が付いて来たらしく見える。……というのは一箇月前に鍬を棄てて、自分の部屋に引込んだ当時は、かなり非道い憂鬱状態に陥っていた。食慾が非常に減退して排泄の具合が悪くなり、体量なぞもかなり減少していたが、その後だんだんと回復して来て、今では涼しくなったせいでもあろうが、旧来《もと》以上になっている事が、病床日誌にチャンと出ている。だから目下はあのとおり、ステキに良《い》い栄養状態で、精神状態も頗《すこぶ》る明朗になったらしく、アンナにニコニコしている訳なのだ。
……そうして昨日《きのう》まで部屋に閉じ籠もっていた奴が、思い出したようにヒョッコリとあそこへ出て来たのは、そうした意識の秩序の回復が、一段落のところまで落付いたか、それとも栄養が良くなったために再び頭を擡《もた》げて来た性慾の刺戟が、以前の変態にまで高潮して来たので、又もあの鍬を振廻しに出て来たのか……という事は、もう暫く模様を見ていないと、わからな
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