込んで行った……というのが、この遺言書に出ている呉一郎の治療順序の説明だ。狂人の解放治療というのは、そういう風に患者の自由行動にあらわれた心理状態を観察して、病気の経過を察しながら、適当な暗示を与えつつ治療して行く意味から付けた名前に外ならないのだ。
……勿論こうした治療法をこころみるには、相当の頭が要る。些《すくな》くとも今までのように当てズッポーの病名を付けて、浅薄な外科や内科の療法を応用したり、そいつが巧く当らなかった時には縛り上げたり、監禁したりなぞ、原始時代をそのままの手当を試みたりするような低級な頭では駄目の皮だ。今後の世界に於て行わるべき、正しい精神病の治療法というものは、そんな曖昧《あやふや》なもんじゃない。即ち精神というものの解剖、生理、病理の原則を、心理遺伝の学理に照してドン底まで理解すると同時に、解放されている患者の自由奔放な一挙一動によって、その心理遺伝の夢中遊行発作が、如何に推移し変化しつつ在るかを隅から隅まで看破しつつ、適当な時機に、適当な暗示を与えて、一歩一歩と正しい時間と空間の観念……正気に導いて行くだけの鋭敏さを持った頭でなくちゃならぬ。アハハハハ。
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