実験が、如何に重大深刻な意味を持っているかを、察し過ぎる位察していながら、些《すこ》しもそんな緊張した気持ちになれなかったのは不思議であった。或《あるい》は飲んだばかりのウイスキーが、いくらか利いていたせいでもあったろうが、却《かえ》って正木博士の真似でもするかのように無雑作に、その綴込みを取り上げて、矢張り無雑作にその第一|頁《ページ》を飜《ひるがえ》したが、見ると中には四角い漢字が真黒に押し固まって、隙間もなく並んでいるのであった。
「ワー。これあ漢文……しかも白文じゃありませんか。句読《くぎり》も送仮名《おくりがな》も何も付いてない……トテモ僕には読めません。これは……」
「フーン。そうかい。フーン、それじゃ仕方がないから、取りあえずその内容の概要《あらまし》を、吾輩が記憶している範囲で話しておくかね」
「ドウカそうして下さい」
「……ウーイ……」
 と正木博士は曖気《おくび》をしながら反《そ》り返った。スリッパを穿《は》いたまま椅子の上に乗って、両膝を抱えるとクルリと南側を向いて、頭の中を整理するように眼を半開《はんびらき》にして窓の光りを透かしながら、ホッカリと青い煙を吐いた
前へ 次へ
全939ページ中701ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング