インキの匂いがしているだろう。ハハハハハ。どんなもんだい。遺言書というものは、是非とも本人が死んだ後から現われて来なければならぬものと、きまってやしないぜ。吾輩がまだ生きていたって、何も不思議はなかろうじゃないか。アッハッハッハッハッ」
「……………」
私は開《あ》いた口が閉《ふさ》がらなかった。正木、若林の両博士が、何のためにコンナ奇妙なイタズラをするのかと思い迷った。悪戯《いたずら》にしても余りに奇妙な、不合理な事ばかり……一体|今朝《けさ》から見た色んな出来事や、様々の書類の内容は、みんな真剣な事実なのか知らん。それとも二人の博士が馴れ合いで、私を戯弄《からか》うために仕組んだ、芝居に過ぎないのじゃないかしらん……と……そんな風に考えまわして来るうちに、今の今まで私の頭の中に一パイになっていた感激や、驚きや、好奇心なぞの山積が、同時にユラユラグラグラと崩れ初めて、自分の身体《からだ》と一緒にスウーとどこかへ消え失せて行くように感じたのであった。
それをジッと踏みこたえて、大|卓子《テーブル》の端に両手をシッカリと突いた私は、鼻の先にニヤニヤしている正木博士の顔を、夢のようにボ
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