《は》やして、白い詰襟《つめえり》の上衣《うわぎ》に黒ズボン、古靴で作ったスリッパという見慣れない扮装《いでたち》をしていた。四角い黒革の手提鞄《てさげかばん》と、薄汚ない畳椅子《たたみいす》を左右の手に提《ひっさ》げていたが、あとから這入って来た看護婦が、部屋の中央《まんなか》に湯気の立つボール鉢を置くと、その横に活溌な態度で畳椅子を拡げた。それから黒い手提鞄を椅子の横に置いて、パッと拡げると、その中にゴチャゴチャに投げ込んであった理髪用の鋏《はさみ》や、ブラシを葢《ふた》の上に掴《つま》み出しながら、私を見てヒョッコリとお辞儀をした。「ササ、どうぞ」という風に……。すると若林博士も籐椅子を寝台の枕元に引き寄せながら、私に向って「サア、どうぞ」というような眼くばせをした。
……さてはここで頭を刈らせられるのだな……と私は思った。だから素跣足《すはだし》のまま寝台を降りて畳椅子の上に乗っかると、殆ど同時に八字|鬚《ひげ》の小男が、白い布片《きれ》をパッと私の周囲《まわり》に引っかけた。それから熱湯で絞ったタオルを私の頭にグルグルと巻付けてシッカリと押付けながら若林博士を振返った。
「
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