席者」は太字] 野見山法倫氏(同寺の住職にして当時七十七歳。同年八月歿)
       余《よ》(W氏)=以上二人=

 ――その御不審は誠に御尤《ごもっと》もで御座います。この縁起の本文にも書いて御座いまする通り、今より百余年の昔に、呉家の中興の祖とも申すべき虹汀《こうてい》様が、残らず焼いて灰にして、弥勒《みろく》の世までもと封じておかれました絵巻物が、如何ようなる仔細で旧《もと》の絵巻物の形に立ち帰って、今の世に現われまして、呉一郎殿のお手に渡って、あられもない御乱心の種と相成りましたか……という事に就きましては、実は、お尋ねがなくとも申し上げて貴方様《あなたさま》(W氏)の御分別を仰ぎたいと思うておったところで御座いました。
 ――元来この縁起の書付《かきつけ》と申しますのは、呉家の名跡《みょうせき》を嗣《つ》がるる御主人夫婦が初めての御墓参の時に人を払って御覧に入れる事に相成っております。そのほか呉家の御血統に関係致しました事は、尋常|在《あ》り来《きた》りの事のほか、一切他人に洩らしませぬのが、開山一行上人|以来《このかた》、当寺の住職たるものの本分の秘密と定められておるの
前へ 次へ
全939ページ中592ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング