れるかどうか……という事に就《つ》きましては、そのような二重、三重の意味から、当大学の内部、もしくは福岡県の司法当局のみならず、満天下の視聴が集中致しております次第で御座います。……然《しか》るに……」
 ここまで一気に説明して来た若林博士は、フト奇妙な、青白い一瞥《いちべつ》を私に与えた。……と思うと、又もやクルリと横を向いて、ハンカチを顔に押し当てながら、一所懸命に咳入り初めたのであった。
 その皺《しわ》だらけに痙攣《ひきつ》った横顔を眺めながら、私は煙に捲かれたように茫然となっていた。今朝から私の周囲にゴチャゴチャと起って来る出来事が、何一つとして私に、新らしい不安と、驚きとを与えないものは無い……しかも、それに対する若林博士の説明が又、みるみる大袈裟《おおげさ》に、超自然的に拡大して行くばかりで、とても事実とは思えない……私の身の上に関係した事ばかりのように聞えながら、実際は私と全く無関係な、夢物語みたような感じに変って行くように感じつつ……。

 すると、そのうちに咳嗽《せき》を収めた若林博士は又一つジロリと青白い目礼をした。
「御免下さい。疲れますので……」
 と云ううち
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