ばかりで御座います。
 しかし最早すでに、学術の権化ともいうべき心理状態になっているらしい若林博士は、そんな事を気にかけるような態度を微塵《みじん》も見せませぬ。衣裳なんぞには用はないという風に、極めて無造作に、裲襠と、帯と、振袖の三枚|襲《がさね》を掴みのけて、棺の傍《かたわら》に押し込みますと、その下から現われましたのは素絹《しらきぬ》に蔽われました顔、合掌した手首を白木綿で縛られている清らかな二の腕、紅友禅《べにゆうぜん》の長襦袢《ながじゅばん》、緋鹿子絞《ひかのこしぼ》りの扱帯《しごき》、燃え立つような緋縮緬《ひぢりめん》の湯もじ、白|足袋《たび》を穿かされた白い足首……そのようなものがこうした屍体解剖室の冷酷、残忍の表現そのものともいうべき器械、器具類の物々しい排列と相対照して、一種形容の出来ないムゴタラシサと、なまめかしさとを引きはえつつ、黒装束の腕に抱えられて、煌々《こうこう》たる電燈の下に引き出されて参ります。中にも一際《ひときわ》もの凄くも亦《また》、憐れに見えますのは、丈《たけ》なす黒髪を水々しく引きはえて、グッタリと瞑目している少女の顔に乱れ残った、厚化粧と口紅で
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