イヤ、これは冗談だが、こうした犯罪手段は既に、空想や、推測の範囲を通り越して、眼の前の問題となって来ている。事実は常に研究に先立って存在するものである……と云ったらチョット眉に唾液《つばき》を付けてみたくなるであろう。
 ところが驚く勿《なか》れだ。現に吾輩の畏友《いゆう》、九州帝国大学医学部長、若林鏡太郎《わかばやしきょうたろう》君の名著『精神科学応用の犯罪とその証跡』と題する草稿の中に、緒論として、コンナ愚痴《ぐち》が並べてある。ちょうどその緒論だけが、吾輩の処へ校閲を頼んで来ているから、ちょいと失敬して抜き読みをしてみると、コンナあんばいだ。……曰《いわ》く……

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 ――余ノ調査研究セルトコロニ依《よ》レバ、既ニ往昔《おうせき》ヨリコノ種ノ犯罪ガ行ワレツツアリシ事実ヲ認ムルヲ得ベシ。例エバ役行者(えんのぎょうじゃ)、阿部晴明(あべのせいめい)、弘法大師等ノ密教、陰陽術ノ流《ながれ》ヲ伝ウル者、真言秘密ノ行者、修験者《よげんじゃ》、祈祷師、代人、巫女《みこ》、ソノ他、何々教、何々様ト称スル神仏類似ノモノニ奉仕スル輩ノ中ニハ、積年ノ経験ヨリ得タル一種ノ精神科
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