は吾々の眼が醒めている間の気分が、周囲の状況によって支配されつつ変化して行くのとは正反対で、夢の中では気分の方が先に立って移り変って行く。そうしてその気分にシックリする光景、風物、場面を、その気分の変って行く通りに、あとから追いかけ追いかけ千変万化させて行くのであるから、その千変万化が如何に突飛《とっぴ》な、辻褄《つじつま》の合ないものであろうとも、その間《かん》に何等の矛盾も、不自然も感じない。のみならず現実式の印象よりも却《かえ》って自然な、深刻、痛切な感じを受けるように思うのは当然の事である。
 換言すれば夢というものは、その夢の主人公になっている細胞自身にだけわかる気分や感じを象徴する形象、物体の記憶、幻覚、聯想の群れを、理屈も筋もなしに組み合せて、そうした気分の移り変りを、極度にハッキリと描きあらわすところの、細胞独特の芸術という事が出来るであろう。
[#ここから1字下げ]
 ◇備考[#「◇備考」は太字] 欧米各国に於ける各種の芸術運動の近代的傾向は、無意味なもしくは断片的な色彩音響、又は突飛な景象物体の組合せ等によって、従来の写実的、もしくは常識的の表現法以上の痛切、深刻な
前へ 次へ
全939ページ中327ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング