を慕うノンセンスの幽霊ばかりを彷迷《さまよ》わせるようになってしまった。
『物を考える脳髄』は、かくして知らず識《し》らずの裡《うち》に、人類を滅亡させようとしているのだ。

 その脳髄文化の冷血、残酷さを見よ。
 これが放任しておかれようか。
 そればかりじゃない……。

『物を考える脳髄』は、かくして人間の一人一人を、錯覚の虚無世界に葬り去るべく害悪を逞《たくま》しくする一方に、人類全体のアタマを特別念入りの手品にかけて、木《こ》ッ葉《ぱ》ミジンに飜弄しつくしているのだ。
 そうして同時に吾輩……アンポンタン・ポカンの探偵眼を徹底的に眩《くら》ますべく試みているのだ。
 ……見よ……。
 ……『脳髄のトリック』に飜弄されつつある『脳髄の悲喜劇』が、いかに夥しく諸君の鼻の先に転がりまわっているかを見よ。『脳髄のノンセンス劇』が如何に真剣に、全世界を舞台として展開されつつあるかを看取せよ。
 ……看《み》よ……。
『物を考える脳髄』はこの通り人類世界の文化に君臨している。……宇宙万有の秘奥に到るまで、考え得ざるものなし……と誇称しつつ、科学文化のドン底までも支配し指導しつつある。
 …
前へ 次へ
全939ページ中257ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング