《ようじん》堅固に構えた部屋の感じである。
 窓の無い側の壁の附け根には、やはり岩乗《がんじょう》な鉄の寝台が一個、入口の方向を枕にして横たえてあるが、その上の真白な寝具が、キチンと敷き展《なら》べたままになっているところを見ると、まだ誰も寝たことがないらしい。
 ……おかしいぞ…………。
 私は少し頭を持ち上げて、自分の身体《からだ》を見廻わしてみた。
 白い、新しいゴワゴワした木綿の着物が二枚重ねて着せてあって、短かいガーゼの帯が一本、胸高に結んである。そこから丸々と肥《ふと》って突き出ている四本の手足は、全体にドス黒く、垢だらけになっている……そのキタナラシサ……。
 ……いよいよおかしい……。
 怖《こ》わ怖《ご》わ右手《めて》をあげて、自分の顔を撫《な》でまわしてみた。
 ……鼻が尖《と》んがって……眼が落ち窪《くぼ》んで……頭髪《あたま》が蓬々《ぼうぼう》と乱れて……顎鬚《あごひげ》がモジャモジャと延びて……。
 ……私はガバと跳ね起きた。
 モウ一度、顔を撫でまわしてみた。
 そこいらをキョロキョロと見廻わした。
 ……誰だろう……俺はコンナ人間を知らない……。
 胸の動
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