れはこっちから紹介してもいいが、役目柄、学部長の若林君の手を経て提出した方がよかろうと云われたから、こっちへ担ぎ込んで来た訳だ。面倒だろうがどうか一つ宜しく頼む」
というお話です。そこで……申すまでもなく保管してありました時計は、すぐに下附される事になりましたが、その時に正木博士が提出されました論文こそ、ダーウィンの『種の起源』や、アインスタインの『相対性原理』と同様……否、それ以上に世界の学界を震駭《しんがい》させるであろうと斎藤先生が予言されました『脳髄論』であったのです」
「……脳髄論……」
「さよう。脳髄論と名づくる三万字ばかりの論文でしたが、その内容は、最前お話いたしました『胎児の夢』とは正反対に、厳粛、荘重を極めたもので、意味の取り違えを防ぐために、独逸《ドイツ》語と、羅甸《ラテン》語の二種類で書かれておりますが、これを文献も何も無い宿屋の二階で僅々《きんきん》二三週間の間に書き上げられた正木先生の頭脳と、精力からして既に非凡以上と申さねばなりますまい。……しかも正木先生はこの論文によって、今日まで何人《なんぴと》も説明し得ず、立証も実験もし得なかった脳髄の不可思議な機能
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