前のように、私の顔を凝視していたが、やがて、又、今までよりも一層慎しやかに口を啓《ひら》いた。
「正木先生が何故《なにゆえ》に、かかる光栄ある機会を前にして、行衛不明になられたかという真個《ほんと》の原因に就ては今日まで、何人《なんぴと》も考え及んだ者が在るまいと思います。無論、私にもその真相は解かっていないので御座いますが、しかしその正木先生の行衛不明事件と、今申上げました『胎児の夢』の論文との間に、何等かの因果関係が潜んでいるらしい推測が可能であることは疑を容《い》れないようであります。……換言致しますれば、正木先生は、御自分の書かれた卒業論文『胎児の夢』の主人公に脅やかされて行衛を晦《くら》まされたものではないかと考えられるので御座います」
「……胎児の夢の主人公……胎児に魘《おび》やかされて……何だか僕にはよく解りませんが……」
「イヤ。今のうちは、ハッキリとお解りにならぬ方が宜《よろ》しいと思いますが」
と若林博士は私をなだめるように椅子の中から右手を上げた。そうして例の異様な微笑を左の眼の下に痙攣《ひきつ》らせながら、依然として謹厳な口調で言葉を続けた。
「……今のうちは
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