は確信する、この『胎児の夢』の一篇は元来、一学生の卒業論文として提出されているのであるが、実は、現在ありふれている、所謂、博士論文なぞとは到底、比較にならない程の高級、且つ深遠な科学的価値を有する発表である。無論、今期、当大学第一回の卒業論文中の第一位に推して、当学部の誇りとすべきもので、これを無価値だなぞと批評する学者は、新しい学術が如何にして生まれて来たか……偉大な真理が、その発表の当初に於て、如何に空想の産物視せられて来たかという、歴史上の事実を知らない人々でなければならぬ」
 ……云々といったような主旨であったと、後に斎藤先生が私に話しておられました。
 ……ところで斎藤先生の斯様《かよう》な主張が、ほかの諸教授たちの反感を買ったのは無論の事でありました。斎藤先生は忽《たちま》ちの中《うち》に満座の諸教授の論難攻撃の焦点に立たれたのでありますが、しかし先生は一歩も退かずに、該博《がいはく》深遠なる議論を以て、一々相手の攻撃を逆襲、粉砕して行かれましたので、午後の三時から始まった会議が、日が暮れても片付きませぬ。何をいうにも新興医学部の最高の使命と名誉とを中心とする、必死の論争な
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