に常軌を逸しておりまして、その標題と同様に、人を愚弄《ぐろう》しているかの如く見えましたので、流石《さすが》に当時の新知識を網羅した新大学の諸教授も、ことごとく面喰らわされてしまいました。その中でも八釜《やかま》し屋を以《もっ》て鳴る某教授の如きは憤激の余りに……
「……こんな不真面目な論文を吾々に読ませる学長からして間違っている。正木の奴は自分のアタマに慢心しておるから、こんなものを平気で提出するのだ。当大学第一回の卒業論文|銓衡《せんこう》の神聖を穢《けが》す者は、この正木という青二才に外《ほか》ならない。こんな学生は将来の見せしめのために放校してやるがいい」
と敦圉《いきま》いているという風評が、学生仲間に伝わった位でありました。むろんこれは事実であったろうと思いますが……。
……斯様《かよう》な事情で、卒業論文銓衡の教授会議に対しては、学内一般の緊張した耳目が集中していたのでありますが、サテ、愈々《いよいよ》当日となりますと果して各教授とも略々《ほぼ》、同意見で、放校はともかくもとして、この論文を卒業論文としてパスさせる事だけは即決否決という形勢になりました。するとその時に
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