―ンと鳴るような……。
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「…………………………
…………………………
黒《く》ウろい黒《く》ウろいまっ黒い
トットの眼玉を喰べたらば
白《し》イろい白《し》イろい真白い
ホントの眼玉が飛び出した
ポンチキポンチキポンチキチ……
白《し》イろい眼玉は可愛いよ
お口の中から飛び出して
お箸《はし》の先から逃げ出して
コロコロコロコロ転がって
どこかへ見えなくなっちゃったア
ラアラアラアラアポンチキチ……
白《し》イろい眼玉は可愛いよ
トットの眼玉は可愛いよ
ホントの眼玉は可愛いよ
可愛い可愛い可愛いよオ――
ラアラアラアラアポンチキチ……
ポンチキポンチキポンチキチ……
可愛いヨオ――可愛いヨオ――
…………………………」
[#ここで字下げ終わり]
という最前の舞踏狂の少女の澄み切った声が、南側の硝子《ガラス》窓越しに洩れて来る……。
……突然……一つの素晴らしい考えが頭の中に閃《ひら》めいた。私の頭の中心にコビリ付いていた千万無数の…… ?《インタロゲーションマーク》 ……が一時にパッと光って消え失せたような気がした。器械人形のように顔から手を離して、廻転椅子の上に腰かけ直した。正木博士が出て行った入口の扉《ドア》を見た。正面の壁にかかった黄金と黒の二つの額ぶちを見た。眼の前に散らばっている様々の書類を見まわした。秋の正午に近い光りが、室《へや》中一パイに籠《こも》った葉巻の煙を青白く透かして、色々な品物の一つ一つにハッキリした反射を作っているのを見た。
「……ナア――ンダ……ナア――ンのコッタイ。……これあ……アッハッハッハッハッハッハッハッハッ……」
私は両方の横腹から、たまらない可笑《おか》しさがコミ上げて来るのを両手で押え付け押え付けして笑い続けた。
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……馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……大馬鹿の大馬鹿の三太郎だったんだぞ俺……アッハッハッハッハッ……
……若林博士も、正木博士もそうなんだ。イヤ、俺よりもモットモット念入りの大馬鹿なんだ。俺たちは三人共、飛んでもない誤解をし合っているのだ。何という馬鹿馬鹿しい間違いだ、……これは……。
……誰が千世子を殺したか。誰が呉一郎に絵巻物を渡したか。……誰が呉一郎の本当の親なのか。WかMか……それとも外にモウ一人チャンと控えているのか……そんな謎はまだ、丸っきり一つも解かれていないのだ。みんないい加減な第三者の仕事かも知れないのだ……
……否々、この事件には初めっから一人も犯人がいないのに違いない。この事件の内容というのは偶然に離れ離れに起った、原因不明の出来事の色々を、一つに重ね合わせで覗いたものに過ぎないのだ。千世子の縊死《いし》だって……斎藤博士の溺死だって……呉一郎の発狂だって……みんな自分勝手にし出かした事かも知れないのだ……でなければ、こんなに神秘的な、不可解な、底の知れない事件があり得る筈はないじゃないか。
……それを二人の博士が感違いをして、無理に一枚に重ね合わせて、一つの焦点を作ろうとしているのだ。お互いに相手を恐れて……自分の大切な研究材料を相手に取られまいとして、色眼鏡をかけて睨み合ったために、何もかも相手がタッタ一人でして来た事のように見えたに過ぎないのだ。
……可哀相に……めいめい自分で覚えがあり過ぎるために……否……否……今まで手応えのある相手を発見し得なかった古今無双の二つの脳髄同志が、ここで互いに好敵手を発見し合って、本能的に戦闘慾を発揮し初めたんだ。力一パイ四ツに取組んで、動く事が出来なくなっているのだ。
……アハ……アハ……こんな馬鹿馬鹿しい……間の抜けた……トンチンカンな争いが又とこの世にあり得ようか。事件そのものの内容よりも、二人の博士の研究と争闘の方が、ズット真剣で、深刻で恐ろしいのだもの。もしかすると学者なんてものは皆、こんな詰らない事ばかりを本気になって争い合っているものじゃないかしら……。
……しかし考えて見れば無理もないだろう。あの呉一郎と、この俺とはドウしても双生児《ふたご》としか思えないくらい肖通《にかよ》っているんだもの。おまけにあの呉モヨ子と、この絵巻物の死美人像とが、瓜二つどころじゃない。ソックリそのままなんだもの……こんなに在りそうにもない二重の偶然同志がこの地方で、しかも同じ血統《ちすじ》の中に固まり合っているのを発見したら、誰だってビックリするに違いないだろう。そうしてこれには何か深い原因《わけ》があるに違いないと思って、最初から色眼鏡をかけて研究を初めるだろう。……本人はそんなつもりでなくても、研究を初める気持が既に色眼鏡をかけたのと同じ気持だから仕方がない。その証拠には、この事件を組み立てている色々な
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