ている寝台の上に、靴|穿《ば》きのまま這い上って、仰向けにドタリと寝た。その頭の処で、扉がひとりでに閉まって来て重々しい陰鬱な反響を部屋の内外に轟かした。
 ……すると、それと殆ど同時に、混凝土《コンクリート》の厚い壁を隔てた隣りの六号室から、魂切《たまぎ》るような甲高《かんだか》い女の声が起った。
「兄さん兄さん……兄さんに会わして下さい。今お帰りになったようです。あの扉《ドア》の音がそうです。兄さんに会わして下さい……イイエイイエ……妾《あたし》は狂女《きちがい》じゃありません……兄さんの妹です。妹です妹です……兄さん兄さん。返事して頂戴……妾です妾です妾です妾です」
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………………………………………………………………………………………………………………これが胎児の夢なんだ………………………………………………………………。
……と私は眼を一パイに見開いたまま寝台の上に仰臥して考えた。
……何もかもが胎児の夢なんだ……あの少女の叫び声も……この暗い天井も……あの窓の日の光も……否々……今日中の出来事はみんなそうなんだ……。
……俺はまだ母親の胎内に居るのだ。こんな恐ろしい「胎児の夢」を見て藻掻《もが》き苦しんでいるのだ……。
……そうしてこれから生れ出ると同時に大勢の人を片《かた》ッ端《ぱし》から呪い殺そうとしているのだ……。
……しかしまだ誰も、そんな事は知らないのだ……ただ俺のモノスゴイ胎動を、母親が感じているだけなのだ。
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 私の寝ている横のコンクリートの壁を向側からたたく音がし初めた。
「……兄さん兄さん。一郎兄さん。あなたはまだ妾《あたし》を思い出さないのですか。あたしですあたしです……モヨ子ですよ……モヨ子ですよ。返事して下さい……返事して……」
 と二三度連続して叩いたと思うと、痛々しい泣声にかわって、何かの上にひれ伏した気はいである。
 私は寝台の上に長々と仰臥したまま、死人のように息を詰めていた。眼ばかりを大きく見開いて…………………………………。
 ……ブ…………ンンンンン……
 という時計の音が、廊下の行き当りから聞えて来た。
 隣室《となり》の泣声がピッタリと止んだ。それにつれて又一つ……
 ……ブ――――ン……
 という音が聞えて来た。前よりもこころもち長いような……私は一層大きく眼を見開いた
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