ん中に突立って、煽風機《せんぷうき》のように廻転する自分の頭の中を、眼の奥底に凝視しつつ…………。
[#ここから1字下げ]
……けれども……。
……けれども、もしそうとすれば、私は是非とも呉一郎でなければならぬ…………。
……お……オオ……私が……アノ呉一郎…………。
……あの正木博士が私の父親……。
……あの千世子が私の母親……。
……そうしてアノ狂える美少女……モヨ子…………モヨ子は…………。
……おお……おお…………。
……私は親を呪い、恋人を呪い、最後に見ず識《し》らずの男女数名の生命《いのち》までも奪うべく運命づけられた、稀有《けう》の狂青年であったのか…………。
……死んだ父親の罪悪を、白昼公然と発《あば》き立てている、冷酷無残な精神病者であったのか……。
[#ここで字下げ終わり]
「アアッ……お父オさア――ン……お母アさ――ン……」
と叫んだが、その声は自分の耳には這入らなかった。ただ嘲《あざ》けるような反響を室の隅々に聞いただけであった。
私はそのまま下顎を固張《こわば》らせつつ、森閑《しんかん》とゆらめく電燈の光りを振り返った。大きな歎息をした後のように静まり返っている室の中を見まわした。
……意識の力はどこまでもハッキリしたまま……うつつともなく、夢ともなく、私の眼の前の床が向うの方に傾くにつれて、半分《なかば》開いた入口の方向を眼指《めざ》しつつ蹌踉《ひょろひょろ》と歩み出した。
「出入厳禁」と書かれた白紙を扉《ドア》の外から振り返った。
……しっかりせねばならぬ……どこまでも理性を働かせねばならぬ……と思いつつ白い月の光りがさし込んでいる窓付きの廊下を、右に左に傾き歩いた。
玄関の左右に並んだ真暗な階段の左側を、棒のように強直《ごうちょく》しつつ……ゴト――ン……ゴト――ン……という自分の足音を聞きつつ……一段一段と降りて行った。そのおしまいがけに、もう床に行き着いたと思うと、私の足は空を踏んで、全身が軽々とモンドリを打った……ように思う。
それから私はどうして起き上ったか、どこをどう歩いて行ったかわからない。いつの間にか自然と七号室の扉《ドア》の前に来て、石像のように突立っている私自身を発見した。
私は何かしら思い出せない事を、一所懸命に考え詰めた揚句《あげく》に、思い切ってその扉を開いて中に這入った。今朝《けさ》のままになっ
前へ
次へ
全470ページ中467ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング