、お差支えありませんね」
「それは無論、君の自由だ。御随意に遊ばせだが……」
「ありがとう御座います。それじゃ済みませんが、僕を此病院《ここ》から解放して下さい。ちょっと出かけて来たいのですから……」
と云ううちに私は立上って、卓子《テーブル》の端に両手を支《つ》いてお辞儀をした。しかし正木博士は平気でいた。お辞儀を返そうともしないまま悠々と椅子に踏反《ふんぞ》り返って、葉巻の煙を思い切り高々と吹上げた。
「出かけるって、どこへ出かけるんだい」
「どこだか、まだ考えていませんけど……帰って来る迄には事件の真相を根こそげ抉《えぐ》り付けてお眼にかけます」
「フフン。抉り付けて胆を潰《つぶ》すなよ」
「……エッ……」
「この絵巻物の神秘は、お互いに破らない方がよかろうぜ」
「……………」
私は思わず立竦《たちすく》んだ。そういう正木博士の態度の中には、私を押え付けて動かさない或る力が満ち満ちていた。……曠古《こうこ》の大事業……空前の強敵……絶後の怪事件……そんなものに取巻かれて、嘘か本当か自殺の決心までさせられながら、それを片《かた》ッ端《ぱし》から茶化《ちゃか》してしまっている。その物凄い度胸の力……その力に押え付けられるように私は又、ソロソロと椅子に腰をかけた。そうして改めてその力に反抗するように居住居《いずまい》を正した。
「……よござんす……それじゃ僕は出かけますまい。その代りこの犯人を発見するまで、僕はここを動きません。僕の頭が回復して、この絵巻物の神秘を見破り得るまで、この椅子を離れませんが……いいですか先生……」
正木博士は返事をしなかった。そうして何と思ったか、急に腰を落して、グズグズと椅子の中に屈《かが》まり込み初めた。短かくなった葉巻を灰落しの達磨《だるま》の口へ突込んで、背中を丸めて、卓子《テーブル》に頬杖を突いたが、その時にジロリと私を見た狡猾《ずる》そうな眼付と、鼻の横に浮かんだ小さな冷笑と、一文字に結んだ唇の奥に、何かしら重大な秘密を隠しているらしい気振《けぶり》を見せた。
私は思わず身体《からだ》を乗り出した。身体中の皮膚が火照《ほて》るほどの異状な昂奮に包まれてしまった。
「いいですか先生……その代りに、万一、僕がこの犯人を発見し得たら、僕が勝手な時に、勝手な処でその名前を発表しますよ。そうして呉一郎を初め、モヨ子、八代子、千
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