められる虞《おそ》れもありますので、ソックリそのまま寝間着《ねまき》に使っていたのでした。妾はこの一年の長い間、こんなにまで苦心してお帰りを待っていたのです。……それだのに、あなたはイッタイ何のために、姉さんを殺してお終《しま》いになったんですか。そうして此家《ここ》へ何しに帰って見えたんですか。そのお姿はどうなすったんです。姉さんを殺されたくらいなら、妾も序《ついで》に殺してちょうだい……といううちに、ワッとばかりに泣出した」
「ずいぶん姉思いの妹ですね」
「ナアニ。前から呉青秀にモーションをかけていたんだよ」
「……ヘエ……どうして解ります」
「……どうしてって素振《そぶ》りが第一|訝《おか》しいじゃないか。生娘《きむすめ》の癖に、亭主持ちの真似をして、一年近くも物凄い廃屋《あばらや》に納まっているなんてナカナカ義理や物好きでは出来るものじゃないよ。その間に人知れぬ希望と楽しみがなくちゃ……しかも姉の新婚匆々時代の紅い服を着て歩きまわるところなんぞは、ドウ見ても支那一流の、思い切った変態性慾じゃないか。あるいは玄宗皇帝時代に、空閨《くうけい》に泣いていた夥《おびただ》しい宮女たちから受けた感化かも知れないが」
「……ですけども、自分はそう思っていないじゃないですか」
「無論、そんな自省力を持ち得る年頃じゃないさ。殊《こと》に女だから、どんなデリケートな理屈でも自由自在に作り上げて、勝手気儘な自己陶酔に陥って行ける訳さ。気持ちの純な、頭のいい人間の変態心理は、ナカナカ見分けが付きにくいんだよ。……その代りこっちの眼さえ利いて来れば、そこいらの無邪気な赤ん坊や、釈迦、孔子、基督《キリスト》にでも色んな変態心理を見出すことが出来る」
「……驚いたなあ。……そんなもんですかナア……」
「まだまだ驚く話が、今までの話の裏面に隠れているんだが、それは、あとから説明するとして、サテ、少々話が長くなったから端折《はしお》って話すと、その時に呉青秀に迫って、根掘り葉掘り、これまでの事情を聞いた上に、現実の証拠として、自分とソックリの姉の死像を描いた絵巻物を開いて見せられた芬子嬢は、実に断腸《だんちょう》、股栗《こりつ》、驚駭《きょうがい》これを久しうした。けれども結局、義兄夫婦の忠勇義烈ぶりにスッカリ感激して号泣|慟哭《どうこく》して云うには、蒼天蒼天、何ぞ此《かく》の如く無情な
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