の手にかかって、お亡くなりになったのだ……そうしてお義兄《にい》様は妾を姉さんの幽霊と間違えていらっしゃるのだ……という事がヤット解りましたから、お義兄《にい》さまの惑いを晴らすために、急いで自分の一帳羅《いっちょうら》服に着かえてしまったのです。……ですが一体お義兄《にい》さまは、どうして黛子姉さんをお殺しになったのですか。そうして今日が日まで一年もの長い間、どこで何をしていらっしたんですか……と涙ながらに詰め寄った」
「ハア……しかし何ですね。……その前にその芬子という妹は、何だってソンナ奇怪《おかし》な真似をしたんでしょうか。姉さんの着物を着て、その夫に仕える真似事をしたりなんか」
「ウンウン……その疑問も尤《もっと》もだ。呉青秀もやっぱり同感だったろうと思われるね。それともまだ開《あ》いた口が塞《ふさ》がらずにいたのかも知れないが、何の答えもあらばこそだ。依然として芬子嬢の顔を見下したまま唖然《あぜん》放神の体《てい》でいると、やがて涙を拭いた芬子嬢は、幾度もうなずきながら又|曰《いわ》く……御もっともで御座います。これだけ申上げたばかりではまだ御不審が晴れますまいから、順序を立ててお話しましょうが……お話はずっと前にさかのぼって丁度去年の暮の事です。……姉さんが宮中を去ってからというものは、外《ほか》に身寄り便《たよ》りのない妾の淋しさ心細さが、日に増し募《つの》って行くばかりでした。そのうちに又、ちょうど去年の今月の、しかも今日の事……大切な大切なお義兄《にい》さま達御夫婦が、外《ほか》ならぬ妾にまでも音沙汰《おとさた》なしで、不意に行衛《ゆくえ》を晦《くら》ましておしまいになったと聞いた時の妾の驚きと悲しみはどんなでしたろう。一晩中寝ずに考えては泣き、泣いては考え明かしましたが、思いに余ったその翌る日の事、楊貴妃様から暫時《しばし》のお暇を頂いた妾は、お二人の行衛を探し出すつもりで、とりあえずこの家に来て見ました。そうして妾を見送って来た二人の宦官《かんがん》と、家《うち》の番をしていた掃除人を還《かえ》してから、唯一人で家内の様子を隈なく調べてみますと、姉さんは死ぬ覚悟をして家を出られたらしく、結婚式の時に使った大切な飾り櫛を、真二つに折って白紙に包んだまま、化粧台の奥に仕舞ってあります。けれども義兄《にい》さんの方は、そんな模様がないばかりか、絵を
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