ている。そのためにその二人が混線してしまって、ドッチがドッチだか解らなくなったのを、二人の博士が競争で見分けようとしてウンウン云っているが、どうしても解らない。とうとう苦し紛《まぎ》れに、そのドッチかの許嫁《いいなずけ》であった少女をそのドッチかにくっつけ[#「くっつけ」に傍点]て結論にして、その手柄を自分のもの[#「もの」に傍点]にすべく、あらゆるペテンを尽して鎬《しのぎ》を削っている……というような、途方もなく愉快奇抜な筋書とも見れば見られるではないか。……面白いな……いよいよソンナ事に違いないと決定《きま》れば二人の博士が私の敵《かたき》だろうが味方だろうが、その二人が私にかけているダマシの手段が、如何に巧妙な恐ろしいものであろうが、チットモ恟々《びくびく》する事はない。是非とも私自身にこの事件の正体がわかるところまで突込んで行かなければ嘘だ。そうして事件の真相をトコトンまで抉《えぐ》り付けて、あの少女をこのキチガイ地獄から救い出して、二人の博士の鼻を明したら、どんなにか痛快至極だろう……」
[#ここで字下げ終わり]
……というような、無暗《むやみ》に大胆な、浮き浮きした気分にかわってしまったのであった。……室《へや》の中の爽快な明るさ……窓一パイの松の青さ……その中に満ち満ちている白昼の静けさなぞが、今更に気持ちよく、身に沁《し》みて来たのであった。
しかし、こんな風に私の頭の中が変化してしまったのはほんの数秒の間の事であったように思う。間もなく吾に帰ってみると、正木博士は、そうした私の顔を鼻眼鏡|越《ごし》にニヤリと眺めながら頭のうしろに両手をまわして反《そ》りかえっていた。私の質問を待っているかのように……。
私はちょっと間誤付《まごつ》いた。どっちにしても質問したい事があんまり多過ぎるので……しかし、どこからでも構わない気で、眼の前の遺言書を取り上げてバラバラと繰って行くうちに、やがて事件記録抜萃の一番おしまいの処まで来ると、そこを指して正木博士に見せた。
「この……絵巻物の写真版と、その由来記を挿入のこと……と書いてあります。その本物は、どうなっているのですか」
「アッ。そいつは……」
と云い終らぬうちに正木博士は両手を卸して、大|卓子《テーブル》の端をドシンと叩いた。
「……そいつはうっかりしていたよ。ハッハッハッ。君の記憶を回復させようと
前へ
次へ
全470ページ中349ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング