発作については、もう何も疑問の点は残っていないかい」
「あります」
と私は鸚鵡《おうむ》返しに返事をした。ところがその返事は、私の思いもかけないハッキリした声で飛び出して室中に大きな反響を起したので、私は吾《わ》れながらハッとした。思わず座り直して下腹へ力を入れた。
それはたった今眼の前で起った小さな波瀾……カステーラ事件のために、今まで行き詰まっていた私の気持ちがクルリと転換させられたのかも知れない。それともツイ今しがた失神しかけた時に飲まされたウイスキーが、この時やっと、本当の利き目を現わして来たのであったかも知れないが、いずれにしてもこの時に、私の返事が室《へや》の中で「ウワ――ン」と反響して消え失せたのを耳にすると急に勇気付けられたような気持ちになりつつ、熱い茶を一杯グッと飲み込んだ……が、その又お茶の美味《おい》しかった事……舌から食道へと煮え伝わって行く芳《かん》ばしい薫《かお》りを、クリ返しクリ返し味わって行くうちに、全身の関節がフンワリと弛《ゆる》んで、血の循環がズンズンとよくなって来るのがわかった。気持ちがユッタリとなって、頭がポッカリと軽くなって、吾れにもあらず濡れた唇を嘗《な》めまわしながら、正木博士の顔を見据えたのであった。ウイスキー臭い、熱い鼻息をフ――ッと吹きながら……。
「……たとい理屈がどうなっていようとも自分自身を呉一郎と思う事は絶対に出来ない……」
と大きな声で宣言したいような気持ちになりつつ……。すると又、不思議にも、それにつれて今の今まで私の身の上に起って来た色々の出来事が、まるで赤の他人の事のように考えられて何ともいえず面白くなって来たのであった。今朝から見たり聞いたりした色々様々な事が、さながら百色眼鏡でも覗いているかのように、云い知れぬ興味と色彩とを帯びつつ、クルリクルリと眼の前で回転し初めると同時に、たった今まで、とてもオッカナイ、物騒な相手に見えていた二人の博士が、チットモ怖くなくなった許《ばか》りでなく、ステキに面白いオモチャ見たような存在に見えて来たのであった。
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……二人の博士はキット何かしら飛んでもない大きな感違いをしているのだ。
……事によるとこの事件の真相は、思いもかけぬ阿呆《あほ》らしい喜劇かも知れないぞ。
「……私と瓜二つの青年がいて、二人共奇想天外式の精神病に罹《かか》っ
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