附近を徘徊《はいかい》せしようの記憶無し。又同人等の疫病に関しては同所の魚類等は常に新鮮なるを以て、食物中毒等の原因は考慮し得ず。結局病原不明に帰せりと。
[#ここで字下げ終わり]

       ――――――――――――――――――――

 ◇ 絵巻物写真版挿入の事
 ◇ 右絵巻物由来記記入の事
 ◇ 右第二回の発作全般に亘る、観察研究事項記入の事

       ×          ×          ×

 ハッハッハッハッ……。
 ……どうです諸君。面喰いましたかね。
 これが吾輩の遺言書の中の最重要なる一部分なぞいうことは、もういい加減忘れて読んでいたでしょう。悲劇あり。喜劇あり。チャンバラあり。デカモノあり。これに加うるに有難屋《ありがたや》の宣伝もありという塩梅《あんばい》で、ずいぶん共にオカカの感心、オビビのビックリに価する、奇妙|奇天烈《きてれつ》な記録の内容でげしょう。殊にその心理遺伝のあらわれ方の奇抜なことは、真に、お負けなしの古今無類で、現代の所謂《いわゆる》常識や科学知識の如何なる虎の巻を引《ひっ》くり返して来ても到底歯が立ちそうにない。流石《さすが》の名法医学者若林鏡太郎博士も、この事件には少々|手古摺《てこず》ったと見えて、その調査書類の中に、こんな歎息を洩している。曰《いわ》く……
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 余はこの事件の犯人を敢えて仮想の犯人と呼ばむと欲す。何となれば、当該事件の犯人は、現代に於ける一切の学術は勿論、あらゆる道徳、習慣、義理、人情を超越せる、恐るべき神変不可思議なる性格の所有者と想像する以外に、想像の余地なければなり。即ち、此《かく》の如く、僅々《きんきん》二箇年の間に、三名の婦人と一人の青年とを或《あるい》は殺し、或は発狂せしめて、その一家の血統を再び起つ能わざる迄に破滅せしむるが如き残虐を敢えてせるにも拘わらず、その残虐の遂行手段は、いずれも偶然の出来事か、もしくは、或る超科学的なる神秘作用を装いて、それ以外の推測を許さず。犯人の存在は固《もと》より、此の如き犯行を一貫したる目的の存在さえも疑わしきものあり……云々。
[#ここで字下げ終わり]
 ……と……。ところでどうです。前に御覧に入れた記録と、この文句を照し合わせて御覧になった諸君は、最早|疾《とっ》くにお気付きになっているであろう。法医学専門の立場にい
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