《とり》の啼《な》き声が二三度きこえたように思いましたが、それでも、そんな恐しい夢が、あとからあとからハッキリと見えて来ますので、どうしても醒める事ができません。ですから一所懸命になって苦しがって藻掻《もが》いておりますと、そのうちにやっとの思いで眼を開ける事が出来ました。
――その時にはもう、この窓の格子が明るくなっておりましたから、僕はホッと安心しまして、起上ろうとしますと、頭が急にズキンズキンと痛みました。それと一緒に口の中が変に臭いようで、胸がムカムカして来ましたので、これはきっと病気になったんだと思って又寝てしまいました。その時はちょっとのつもりでしたが、今度は夢も何も見ずに、汗をビッショリ掻いて、グーグー睡っていたようでした。
――すると又そのうちに、誰だかわかりませんが不意に僕を引きずり起して、右の手をシッカリと押えつけて、どこかへ連れて行こうとする者がいます。僕は寝ぼけたまま、やはり夢を見ているのかと思って、振り放して逃げようとしますと、又一人誰か来て、僕の左手を押えてズンズン梯子段《はしごだん》の方へ引っぱって行きました。その時にやっと気がついて振り返って見ますと、背広を着た人と、サアベルを引きずった巡査とが母の枕元に跼《かが》まって、何か調べているようでした。
――それを見ると僕は、キット母が虎烈剌《コレラ》か何かに罹《かか》ったのに違いない。そうして僕も同じ病気になっているから、こんな身体《からだ》の具合が変なのだろうと半分夢うつつのように思い思い、二人の男に引っぱられて行きましたが、その時の苦しかった事は未《いま》だに忘れません。何だか身体中が溶けるように倦《だ》るくって、骨がみんな抜け落ちそうで、段々を一つ降りる毎《ごと》に眼の前が真暗になって、頭の中が水か何ぞのようにユラユラして痛みます。それを立止まって我慢しようとしますと、下から急に片手を引っぱられましたので、思い切って転がるように段々を降りて行ったのですが、その途中でヒョイと顔を上げますと、階子段《はしごだん》に向い合った頭の上の手摺《てすり》から、私の母の色の褪めた扱帯《しごき》が輪の形になってブラ下がっているのが眼に這入りました。
――けれどもその時は、それが何故そうしてあるのか考える力もありませんでしたし、そのうちに又附いている男からヒドク小突かれて眼が眩《くら》みそう
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